ベンデン柿
「もう、出て来そうなもんだが……。」と、彦一がフロシキヅツミばさげて、宇土の手前まで行ったら、ヒョイと「宇土のスグルワラ」という狐が出て来たげな。
「彦一さん、何だろうか、そのツツミは……。」
「こるかい、こらあね、八代の平山にだけしかなかベンデン柿てちいうめずらしゅううまか柿たい。あんまりめずらしかけん、熊本まで売りに行きよる。」
「そぎゃんうまかっなら、あたしにもちっと分けてはいよ。」
「そうよ買うならきゃあ売るばってん。」
「よかたい。」
二、三日したら宇土のスグルワラが八代まで泣いて来たげな。
「子どもに食わせたら、ツウジのとまってしもうてパタグルとるばい。どぎゃんするかな。」
「そっで、ベンデン(便出ん)柿て言うたろが……、なあに心配はいらん、おもさん水ば、のませなはり。」
テングとかくれみの
峰山にてんぐの松があるばってん、そこにゃかくれみのばもったてんぐどんがおらすげな。そん山に彦一はのぼったったい。
高か岩ん上あがって、たかんぽば目にあててながめながら
「わァ、トンさんな、あぎゃんとこっでごっそうくいよらす、うまかごたるね。」
と、大声ばあげた。すると、てんぐがとんできて、
「おい彦一、そん目がね、おれんにもかさんかい。」
「バッテンてんぐさん、こら人にはかされんとバイ。」
「そぎゃんいわでん、一度でよかけんかさんかい。」
「そんなら、てんぐさん、あんたのかくれみのとかえっこしてみまっしゅか。」
てんぐはしょっこつにゃァつらで、みのばかし、どぎゃんとんみゆっどかと思い、岩の上からお城ばみたげなたい。ところが何も見えん、
「彦一、こら何も見えんたい、どぎゃんすっとか。」
「そらな、さかさんたい。」
といいながら、かくれみのばきていっさんに山ばかけおりたげな。
てんぐどんな、だまされたっば知ってカンカン、それから顔はあこなったっげなたい。
彦一は町にもどり、だれも知らんもんだけん、すぐ酒屋で酒ば腹一ぱいのうで、よっぱろうてそこでねむってしもたったい。
ところが、みのから足が出とったもんだけん主人から見つかり、みのはとられ、もやされてしもうたげなもん。
そこへてんぐが、おっかけて来て
「こら彦一、ぬしゃ、よくもおりばだましたね、はようみのばもどせ。」
「あんな、てんぐさん、あんみのばきとったバッテンここん主人にみっけられたっばい、かくれみのてうそたい。」
「そぎゃんこたなか、みのばはよやれ。」
「バッテンな、てんぐさん、そんみのは灰になっとるけん、その灰ば体につけなっせ。」
てんぐもしょんなしに、その灰ば体につけたら見えんごつつなったけん、ほっとして山にもどったげなたい。とこっが汗んでてみんな灰は落ちてしもうたげな。
タヌキのまんじゅう
「彦一チャン、あんた何が一番おそろしかっな。」
と、きいて来た。彦一もこまった顔して、
「そうな、人のよろこぶこつだろナ。じつはまんじゅうば見っとふるいあがっとたい。」
と、まじめに答えたげな。そしたらまもなくして、まんじゅうば家ん中に、いっぱいなげこんだげな。彦一は、うれしくてたまらんだったが、
「タヌキどんな、おそろしかこっばしてくれたね、どぎゃんしたらよかろか。」
と、おそろしかまねして、腹いっぱいくった。これを見ていたタヌキは、はじめてだまされたと気づき、今度は一晩中かかって、石ころを彦一の畑ん中にいっぱいなげこんだ。あくる朝彦一は畑を見てびっくり、太か声で、
「こらァいいことしてくれた、石肥三年というけん、こぎァんしてくれて、おらァ遊んどってよか。これが馬の糞だったら、おおごつだったね。ありがちゃこつ。」
タヌキは、又しまったと思った。あくる晩、石のかわりに町中の馬の糞をひろって全部なげこんだげな。
つぎの朝、彦一が思っとった通り、畑を見てにっこり
「こりゃこまった、こまったことしてくれたね。」
タヌキは満足そうにかえり、おかげで町の馬の糞はなくなり、うつくしゅうなったげな