彦一にちえ負けして、ひどい目にあってきたきつねは、「よし、こんどは、さむらいにばけ、彦一をへこましてやる。どんな彦一でも、さむらいにゃ頭があがらん。」と考えて、萩原の土手でまっていましたところ、あんのじゅう彦一がきました。
「やい小僧、おさむらいさまのおとおりだ。」
彦一、おどろいてこけてしまいました。ばってん、きつねだ知って、にやにやして、「おや、だれだろうかとおもたら、水泳の先生ではありませんか。こないだお城であったとき、石をせおって、およいでいらしたばってん、今、この下の川でおしえてください。」ところが、およぎのへたなきつねは、「これ、みょうなさむらに、ばけたもんだ。」て、くやしみしましたが、、負けん気にになって、「よし、おしえますので見ていなっせ。」彦一が、くすくすわるて、ふろしきに石をつつで、きつねの首にゆわいつけました。およぎがへたの上、石までゆわいつけられ、たちまちおぼれて、アップアップ、「彦一、たすけてくれ。」といいました。
はなおうじ
いまどき若侍たちは、ビロードン着ものを着ているな、「ちっとも武士らしゅうなか、着ているのは駄目。」
て、おふれを出さしたげな。そればってん、そろっと町中で、着て歩くもんのおるて、きがしたもんだいけん、彦一に相談さしたげな。「とんさん、萩原のどて桜も、もう見ごろで、いつ花見ばしなはりますか。」
すると、殿様もも彦一の気持がようわかっとらすもんだいけん「そぎゃんたいね、あさってぐらいどうだろうか。」
「よございますな。やりましょか。」花見の日は、そらもうよう晴れて、よか天気だった。そん日は、殿様のビロードンきもんを着て、おらしたもだいけん、若侍たちも、もっとるビロードンきものをきてよかと、大いばりだったって。
彦一が、きたないなりばした町人を、ぞろぞろつれてきてかり、殿様の前に出てきました、殿様にそん町人たちばよう見らすと、ぜんぶぞうりばっかりゃむごうよかつばはいとったげな。
「彦一、今日はまたよかぞうりばはいとんね。」
「ああ、こんぞーりかいた。こらですな、こんごろん町人の間ではやっとる、ビロードンはなおンぞーりですたい。」
「ほほう、こりゃおもしろか。わしン家来ン中にゃ町人のはなおば、きとっとんおる。」
て、言うてわらわしたげな。
そりかりさき、ビロードン着もンば着っとしゃがにゃ、
「や、や、こりゃ、はなお氏……。」
て言われち、だぁれんきるもんのなかごてなったげなたい。
はたけのうね
ながしで球磨ン相良さんな、塩にそうにゃ困っとらすて、聞かした松井のとんさんな、彦一ィ塩ばとどくる役目は言いつけらしたってたい。彦一ちゃ、雨ン止むとば待つとって八代ば出かけたげな。ひるごろ、領地ざかいンとうげにちいた時、旧道じゃせまんかし、ひどか坂ンいくつもあるもんだいけん、馬子たちゃ新道さん行こうてしたばってん、彦一ちゃ、
「だゃじな旅だけん、旧道さん行きまっしゅかい。」
て言うて、どんどん旧道ば行くとげな。十六頭ン馬にちいとった馬子どンたちゃ、ちったブツブツ言うたばってん、
「しょんなかたい。」
て、彦一ンあて、ちいて行ったげな。
旧道じゃ雨ン後で、岩ンゴツゴツ出とったり、ふとか水たまンのあったりしてかり、なんぎしいしい、よんよこし、球磨川ン新道さん出ちきて、ほっとしたげな。
丁度そん時、太か荷物ばかるてかり、球磨川ン道ば、こっちゃん上ってくる旅あきないに会わしたってたい。
「馬子どんたちゃ、よう旧道さんきたなあ、新道じゃ、とちゅンとこんのこん雨で、うっかえとったばい。」
そるば聞イた馬子どんたちゃ、ふのよかったて思うて彦一ばみたりゃ
「うんね、おら知っとったっじゃなか、ひょっとすっとてにゃ思うとったばってん、よかったなあ。」
そしてかり、
「昨日たいな、雨ンちっとやんだもんだいけん、畑さん出ていって見たったい。すっと、新らしかうねは、だらってうっかえとるばってん、古かうねんほうは、ちゃんとしとっどが、そっだいけん、ひょっとすんならて、おもたったい。」
馬子どんたちゃ、彦一ンごらにゃかんしんしたげなたい。